2023年12月15日、ローカルベンチャー(LV)オープン戦略会議*の第9回として、「資源循環にとどまらないサーキュラーデザイン」をオンライン開催しました。
サーキュラーエコノミーとは、従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)を超えて、そもそも廃棄が出ない仕組みに基づく新しい経済モデル。地球環境も経済も持続可能なあり方として2015年頃から取り組みが始まり、欧州が先行しています。そのポイントや具体例について、サーキュラーエコノミー研究家でCircular Initiatives & Partners代表の安居昭博(やすいあきひろ)さんをお招きしてお話を伺いました。(安居さんの詳しいプロフィールはイベントページをご参照ください。)
なお、今回の戦略会議は、ローカルベンチャー協議会事務局のETIC.がJPモルガン社の支援を受けて運営するプログラム「ジャストラ!」と連携して開催しました。「ジャストラ!」は、脱炭素社会への「公正な移行(ジャストトランジション)」という概念に由来しており、中小企業が脱炭素・環境配慮型のビジネスへ転換する際、全ての利害関係者に不利益を及ぼさないよう配慮しつつ、地域の持続可能性向上に取り組むのを支援するプログラムです。地域のサーキュラーエコノミー設計(サーキュラーデザイン)の可能性を考えることが「公正な移行」 につながると考えて企画されました。
以下、安居さんのお話の一部を要約してお伝えします。
■サーキュラーエコノミーとは?
・世界の資源調達リスクが顕在化するなかで、サーキュラーエコノミーへの関心は高まっている。欧州で先行しているが、日本で導入する際に欧州の仕組みと同じである必要はない。むしろ日本には独自の可能性がある。
・従来のリサイクルやアップサイクルは依然としてリニアエコノミー(大量生産・大量廃棄)がベース。廃棄物を減らすという対症療法に過ぎない。サーキュラーエコノミーには最初から「捨てる」というステージが存在しない。
■欧州の事例・トレンド
・MUD Jeans(オランダ)はジーンズのレンタルビジネス。借りたジーンズを返却すると、メーカーはそれを繊維に戻して再度ジーンズに作り直し、新品を送る。ユーザー側に廃棄するメリットはないので、必ずメーカーに戻ってくる。このように、サーキュラーモデルは「捨てさせないための仕組み」を持つ。他の例では、キャッシュバックやデポジットなども活用されている。
・商品設計自体も変わってくる。ジーンズなら、皮ラベルがないほうが再生しやすいので最初から皮を使わない。壊れやすいファスナーでなくボタンにする、など。そこがリサイクルビジネスとの大きな違いとなる。
・建築分野でもコンクリートに代わって木造が主流に。接着剤を使わず金具やビスで組み立てれば、後から外して分解・移築できるので廃棄が出ない。30年後に取り壊さず分解して改修・再販できるとなれば、最初から質の良い素材が使える。
・分解した建材などが再流通する際、素材や修復履歴が分かるマテリアルパスポート(ブロックチェーンとQRコード活用)も導入されている。
・EUで2020年3月に提起されたのが、廃棄を出さないためユーザーが「修理する権利」。たとえばfairphone(オランダ)のスマホは、ユーザーが自分でパーツごとに交換できる。不要パーツを返却するとキャッシュバックがあり、これまで20万台以上売れている。
■欧日本の事例、安居さんの取り組み
・衣料メーカーMITTAN(京都)は、自社の服を小売価格の20%で買い取り、修繕して再販する。修繕によって一点ものの価値がつき、元より高く売れるものもある。
・京都信金は(株)ヒューマンフォーラムと協力し、店頭で不要衣類を回収している。うち再販できないものは循環フェスというイベントに出品。来場者は自分で持ち込んだ衣類と交換できる。人気のイベントで、この仕組みが羽毛布団やおもちゃ、自転車などへ展開している。
・Circular Initiatives & Partnersでは、日本ならではのサーキュラーエコノミーのモデルづくりに取り組んでいる。熊本の黒川温泉などでサーキュラーコンポスト・プロジェクトを開始した(温泉旅館で出る廃棄物から完熟たい肥をつくり、地元の農家へ供給する)。また、ロス食材を活用して菓子を製造する八方良菓も創業した。食品メーカーから出る廃棄物(果物の皮、酒かす、生八つ橋の切れ端など)の情報をネットワークで共有して有効活用を探るエシカルフードアライアンスから発祥。
■サーキュラーデザインの要素
・下記のとおり。電子機器でも衣類でも建材でも分野横断的に当てはまる。
・下記はバタフライ・ダイアグラム。品物がユーザーの手に渡った状態(川下)からどうやって川上へ戻していくかがポイント。戻すときの円が小さいほどメリットがある。リサイクルだとリサイクル工場が必要で、そこでエネルギーも使うから円が大きい。リユースなら工場は不要なので円がひとつ小さい。さらに利用者自身が修理メンテして使い続ければ、もっと円は小さくなる。
・川上(製造・販売)と川下(回収・再生)と両方で考える必要がある。たとえば製造に生分解性素材を導入するだけでなく、それを最後にどう回収し再生するか(逆流通)まで設計すべき。また、川上で競合する企業同士でも川下では協働することができる。
・商品のエンドオブユース、エンドオブライフを考えて設計すれば、廃材が宝の資源に見えてくる。
■質疑応答
Q:再生することが前提だと製造段階でより多くの労力や資源がかかるのでは?
A:ライフサイクルアセスメントのほか、経済面に加えて環境面・社会面も含めた複合的な視点での評価が必要。完璧なモデルはない。何が正しいかではなく、最終的に事業者がどこで納得できるかだと思う。
Q:廃棄物の回収には法的許可が必要になるし、利権が絡むのでは?
A:だからこそ行政や国の対応が重要。EU内では「廃棄物」としては国境を越えられないものでも「資源」とみなせば越えられるような法的整備が進む。日本でもそこが大きなポイントとなる。ちなみに私のビジネスでは(廃棄食材などを仕入れる際)たとえ少額でも価格を付けて商品として買い取っている。現在でも合法的にやる方法はある。また最近は、産廃企業自身が廃棄物を生かす知見を持っているので、むしろ、ものづくり企業が産廃企業からアドバイスをもらってサーキュラー化を進めている例もある。
Q:ユーザーが自分で修理できるとなると品質保証・製造物責任はどうなるか?モノによっては危険もある。
A:BtoBとBtoCは分けて考えたほうがいい。スマホや染め直し衣料のようなBtoC以外にも、たとえばフィリップス社(オランダ)のような高額医療機器のリースや照明器具のリースビジネスもあり、これらはもちろんユーザーが自分でメンテナンスはしない。所有権は移転せず、メーカーは製品に対する責任を持ち続ける。海外のBtoB事例では他にタイヤリース、掃除機リースなどもあるので参考にされたい。