2024年1月9日、ローカルベンチャー(LV)オープン戦略会議*の第11回、 「地域から離れた若者とつながり続けられる仕組みやコミュニティをどう作っていく?」をオンライン開催しました。
日本の地方部では、教育や雇用機会を求めて若者が都市部へ流出してしまう課題を抱えています。流出を防ぐ施策はもちろんのこと、都市部へ出て行った若者が故郷との関係を維持できるような仕組み、「関わりしろ」をつくることも同様に大切ではないか――。今回の戦略会議は、20~30代の転出超過に悩む宮崎県日南市・株式会社ことろどの内田さんからこんなテーマを提案いただいて企画しました。
ゲストスピーカーは、2016年に奄美大島に移住、地域おこし協力隊を経て一般社団法人E’more(いもーれ)秋名を立ち上げた村上裕希さん。移住定住支援やゲストハウス・飲食店運営、インターンシップ・協力隊の伴走等のほか、奄美大島の課題解決に関心を持つ首都圏の大学生のコミュニティを地域側コーディネータとしてサポートしています(村上さんのプロフィール詳細はイベントページを参照)。
以下、村上さんのお話と参加者からの質疑応答の一部を要約してご紹介します。
■村上さんのお話(主に大学生コミュニティのサポート部分)
・活動地域は、奄美大島北部にある龍郷町(たつごうちょう)の中でも人口減少が著しい秋名・幾里集落。住民はたいてい高校卒業後や、20代で就学や就職で島を離れてしまう。龍郷町全体でも、特に20~30代の人口が少ない。
・この現状に危機感を持ち、この地域の豊かな文化・暮らしぶりを外に伝え、次世代につなぎたいと活動している。そのためには次世代の価値観に触れ続ける習慣が必要だ。その観点から大学との接点づくりにも取り組んできた。
・横浜国立大学のマーケティングの授業で話をする機会があり、それがきっかけで同大経営学部の「マイ・プロジェクト・ランチャー」という授業の一環として「龍郷町地域課題解決コミュニティ」が始動した。
・ただ、学生たちがやりたいことと地域側の目線が一致するとは限らず、激論が交わされた。空中分解しかけたこともあるが、学生たちの熱意でプロジェクトは完了、その結果amirthという学生団体が誕生した。集落の活性化、魅力発信、ファンづくりなどを目的として学生自身が立ち上げ、運営している。これまでの活動は高校生交流会(オンライン)、現地での住民ヒアリングなど。
・E’moreとしては、団体の活動状況をSlackで把握し、相談があったら回答したり地域側の考えを伝えたりする程度。基本的に学生の主体性に任せている。メンバーは卒業していくので、今後の課題は引き継ぎと、現地側との継続的な関係構築。メンバーの属人的なプロジェクトではなく、活動軸となる基幹プロジェクトも必要だろう。
・一連の経験を通じて得た気づきは、「若者たちの琴線に触れる資源の見極め」が重要ということ。彼らにとって何がポイントになるのか、しっかり観察してモチベーションにつなげたい。また、大学生の生活は変わりやすい。敷居を低く参加しやすくするとともに、離脱することを問題視しない「流動性の許容」も大事だ。
・学生の自己実現の意欲と地域側視点のコーディネートが肝となる。さらに、学生に限らず関係人口の創出には長期目線での接点づくりが必要。いつ花咲くかわからなくても「関わりしろ」を残しておくのが大事だ。
■質疑応答(一部)
Q:学生の琴線に触れる資源はどうやって見極めているか?
A:都会の子たちは文化的な豊かさに出合う機会が少ないようで、地域の歴史や伝統に興味を持つ印象がある。だから文化的な要素はていねいに共有するようにしている。一方、休園になった保育園を見て初めて少子化をリアルに感じたと言う子もいた。それによって一種の当事者性を感じてくれたようだ。
Q:域外の若者と新しく関係を作りたいとき、やはり大学などのコミュニティにアプローチすべきか、あるいは地域側でもなにか仕掛けを用意すべきか?
A:私たちは今後も大学との接点は持ち続けるが、それとは別に地域側から巻き込む仕組みは必要だと思っている。今後、他の団体とも連携してそういう仕掛けを作ろうという企画はある。地域に関わるタイミングは人それぞれ人生のフェーズによって異なるが、いつでも「つながっている」感覚が持てるものがあるといい。
Q:コミュニティをつくるのは難しい。意図的になりすぎても緩すぎてもダメ。スタンスの取り方は?
A:インターンを受け入れるときもそうだが、最初にこちらの「思いの丈」をきちんと語るようにしている。ただ、それと同じマインドセットを相手に求めるのは酷。自分がそこにどう関われるかを考えてもらえるだけでいい。一方、関わりたくても手段がわからないという場合もあるので、「関わり方のメニュー」を見極めて相手に合わせて提示できるとよい。
Q:(学生側の)人が入れ替わると住民ヒアリングもやり直しなど、地域側に負担をかけてしまう場面はあるはずだ。地域側に「消費されている感覚」はないか?
A:もちろん、どちらかが一方的に消費される関係はよくない。関わってもらえるのはうれしいが、必ずフェアであるべきだ。だから、地域側として気になったことは必ず相手に共有し、事例を示して伝えるようにしている。一方、地域側は来てくれるだけでうれしい部分があるのも事実。ビジネスライクになりすぎず、そのうれしさも率直に伝えている。
Q:若者を相手にする際、大切にしていることは?
A:世代間のギャップがあるのは当然のこと。彼らの言うことをまずは受け止め、マウントをとらないのが大事だ。それがたとえ「常識がない」と感じられたとしても、その常識自体が時代とともに変わっているかもしれない。いずれにせよ、彼らの力がなければ将来をつくっていくことはできない。その前提にたって地域との協働関係をつくっていくのが大切だと思う。