STORY
ストーリー
井野 加奈
南小国町 まちづくり課 企画商工観光係
Vol.3

全国の自治体と相談し合える関係を築きたい

皆さんのおかげで「とにかく町民全員に伝えなきゃ」と思っていた自分から「それぞれの生き方を大事にする。新しいことやりたい人は応援する。普通に生活する人の生き方や多様性も受け入れる」そんな自分に変わることができました。
Question.1

自己紹介

まずは、出身地と経歴を教えてください。

生まれも育ちも南小国。高校から熊本市内に出て、短大に行って、二十歳で役場に入りました。熊本市内での就職も考えたのですが、私は長女だったし、父の病気もあって地元に戻ることにしました。もともと地元愛が強いわけでもなく、南小国のココが魅力とか、町のために何かしたいという熱い思いをもって入ったわけではないのですが、6年間、建設、保育と携わった後、3年間出向で阿蘇地域振興デザインセンターという阿蘇市周辺8市町村の地域活性化事業をやらせてもらって、南小国以外の市町村の方と関わることになって、私自身、すごく刺激を受けて変わったんです。

どう変わりましたか。

他の市町村の観光協会やまちづくりをやっている民間や行政官の人と知り合い、色々な市町村の特色や雰囲気を見て、阿蘇が大好きになったんです。そこから自然と、自分の生まれ育った南小国に対しても愛着が湧いて、気づいたら「南小国が一番好き!」ってなってました。

南小国どんなところを好きと思ったのですか。

のんびりしていてギスギス感がないところですね。それは今思うと、長所でもあり短所にもなると思うのですが、危機感があまりないと言いますか…。黒川温泉という観光資源があるので、町として、どうにかせないかんとか、このままじゃだめだというのが少ないように思います。でもそれが、最近町長を筆頭に、「黒川温泉はあるけど、町全体の30年後、50年後を考えたときに南小国は衰退してきちゃう」という危機感が少しずつ浸透してきた感じがあります。南小国は平和だと思っていましたが、本当に果たしてすべて長所なのかと、もやもや感じているところはあって、そこに対して町長が新しいことをやろうと先頭に立ち、関係人口増やそうとか、町のなかになかった概念を取り入れようと一生懸命動き出したばかりというところです。

Question.2

参画の背景

ローカルベンチャー協議会(以降、LV協議会)参画も町長の強い意志ですか。

そうです。一般社団法人フミダスさんが町長の想いを聞いて、LV協議会への参画を勧めてくれました。外との繋がりや、色々なところの力を借りながら、中と外をつないでいこうと2018年度から参画しました。

Question.3

参画後の変化

参画して変わったことはありますか。

自分の変化としては、ひとつは、町は平和なんだけど、危機感が少ないというところはローカルベンチャーの担当になってからさらに明確に感じるようになったことです。

もうひとつは、今の生活に何も不満がないという人たちを、無理やり事業に巻き込む必要はないんだと学びました。町の担当としてやっていると、みんなを巻き込まなきゃいけない、なのに分かってもらえないという、ジレンマに陥ります。しかしそれが、やりたい人たちでまずやる。それ以外は興味を持ってくれたらいいかというスタンスになったんです。

それは誰の影響ですか。

西粟倉村の皆さんに南小国に来てもらって、町民の皆さんに活動や事例を紹介してもらいました。そのときに「村民の人たちにどうやって理解してもらったんですか」と聞いたら、「最初から村民みんなにわかってもらおうとしていない」と聞いて、なるほどと思いました。

でもある程度は町民の皆さんが興味を持ってくれて、悩んだときや、新しいことをやりたい時に相談してもらえるような事業に育てたいと思っているので、うちはうちでやり方を見つけたいです。

起業型の地域おこし協力隊の導入も、西粟倉村を参考に取り入れて、ローカルベンチャーの事業でこんなことができたよ、ワクワクすることができたよっていうのが少しずつ生まれていくといいなと思っていますね。悩みながらなんですけどね。

役場の中でのローカルベンチャー推進事業の位置付けは。

今年度から民間パートナーが株式会社SMO南小国になり、役場も担当を増やし、まちづくり課全体で一緒にやっていこうという体制に変わりました。自分の中では安心感というか、なんかちょっと気分的に楽になったところです。SMO南小国の安部さんは、東京から移住して来てさっそく町民の人たちと関係を築いてくれています。もうすぐ事業の拠点となる町で初めてのコワーキングスペースがオープンするのですが、とても楽しみです。

事業名としては、カタカナは極力使わないで「南小国未来づくり事業」と呼んでいます。町には年配の方が多いし、カタカナには抵抗感があるので。

また、役場内では、若手職員の巻き込みも始めました。

コワーキングスペースの町民説明会の前に、役場職員向けに説明会をしました。役場の中で仲間を増やしたいと思って、おしゃれなコワーキングスペースに全部の課から2人ずつ呼んで話を聞いてもらったら、みんなちょっとワクワクしている感じで。今から20年後、30年後を考えていこうという事業なので、若手の職員がどう感じて関わってくれるかがやっぱり大事だよなと改めて思ったんです。

さっそく建設課の職員から「Uターンして町で起業したい友人がいるから紹介したい」という話もありました。若手職員は思った以上に興味をもってくれているようです。

Question.4

LV協議会とは

井野さんにとってLV協議会とは。

色々なところに行かせてもらって、おもしろい人たちに出会えて得している、ラッキーだなと思うんですよね。出会って刺激をもらえて、そのおかげで、みんなを巻き込まなきゃ、町民全員に伝えなきゃと思っていた自分から、それぞれの生き方を大事にする、新しいことやりたい人は応援する、いろんな人の生き方の多様性を自分のなかで受け入れるというか。そういう風に納得できたことは、この担当になったからかなぁと思います。

どういう自治体に協議会への参加をお勧めしたいですか。

地方って、どちらかというと閉鎖的なところが多いと思うんですけど、積極的に変化を求めているところですかね。

そして、ある程度覚悟はいるんだなと思いました。新しいことやるときって大変じゃないですか。色々な外の人が来て、すごくワクワクする人もいれば、「また知らんひとが来とる」「よくわからんことが起きてる」、と嫌がる人も田舎にはたくさんいると思うんです。そこをもっと変えていきたいとか、変化を求めている自治体さんにはお勧めしたいですね。

自治体職員さんでいうとどういう方でしょうか。

人と繋がったり、関わることとか、新しい出会いや新しいコトにワクワクできる人、自分の町をもっと好きになりたい人とか、もっと知ってほしいという人かなぁ。

Question.5

これからのこと

LV協議会に期待していることは。

交付金期間の終了を見据えて、LV協議会の他の市町村さんのノウハウや知見を知る機会を積極的に活用したいと思っています。もっと南小国も知ってほしいし、他のところも知りながら相談できる関係をSMO南小国を通して深めていきたいと思っています。そして南小国でやるからには、南小国らしさを大事にしていきたい。

Question.6

ローカルの未来

南小国の100年後はどう見えますか。

願望としては、町として残っていてほしい。合併せずに。その考え方自体が古いのかなぁと思うけど、正直いって町の名前が変わることを想像するとすごく寂しいですね。南小国町であってほしい。でも町外の出身の方や、新しい考え方は全然ウェルカムです。ローカルベンチャー事業を通して、もともと南小国出身だった人だけで成り立っていた町の概念が変わって、南小国を知らなかった人たちが、普通に南小国の町民として、生まれも育ちも地元の人と変わらない感じで生活している雰囲気になるといいですね。もともと南小国の人と、他からきた人、ということが全然気にならない、話にも出ないくらい自然に暮らしているという町の姿であってほしいと思います。

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取材 2019年5月